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名古屋地方裁判所 昭和40年(ワ)3357号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、事故

請求原因事実(1)は争がない。

二、原告今人の逸失利益

<証拠>によれば、原告今人は心身ともに健康な男子であつたことが認められるから、その年令が事故時一〇才であることに徴し、昭和三九年簡易生命表によりその平均余命である五九、九三年だけ即ち満六九、九三年まで生存し得たと推定できる。従つて同原告は満六五才まで稼働可能というべきである。

同原告が稼働を開始する年令は満二〇才と推認される。よつて労働大臣官房労働統計調査部発行労働統計年報昭和三九年版中「C賃金構造基本統計調査」六二表「産業、労働者の種類、性、学歴、年令階級および勤続年数階級別きまつて支給する現金給与額の平均および労働者数」によれば、左表上段記載の年令層男子労働者の平均月間きまつて支給を受ける現金給与額は勤続年数が左表中段のとおりとすれば、左表下段のとおりであることは顕著な事実である。特段の事情の顕れない本件では、同原告は事故がなければ将来左記の年齢において左の月収を得たと推認できる。

二〇―二四才 〇年 二一九〇〇円

二五―二九才 五年 三〇九〇〇円

三〇―三四才 一〇年 三九〇〇〇円

三五―三九才 一五年 四三四〇〇円

四〇―四九才 二〇年 五四一〇〇円

五〇―五九才 三〇年 六一〇〇〇円

六〇―六五才 三〇年 四九三〇〇円

ところで、同原告の前示後遺傷害は労働基準法施行規則別表第二身体障害等級表第五級に該当するから、労働能力喪失率表によりその率は七五パーセントである。よつて同原告は本件事故により前示の将来の各月収額の七五パーセントを失うものと推認できる。この毎月の喪失額の合計額からホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除し事故時の現価に引直せば、その額は同原告請求の一四一万円を超えることは明らかである。

三、原告今人の慰藉料

原告今人は前示のように心身ともに健康な児童として養育せられたのであるが、何らの過失なくして本件交通事故にあいその結果前示の期間入院及び通院加療を受け左下腿部切断のやむなきに至つた。これにより、同原告は身体機能が低下し日常起居動作に多大の不便を蒙り、将来とも義足その他の治療を受けねばならず、進学就職結婚等に重大な不利益を受けることは容易に推認できる。ところで被告らがすでに原告らの治療費雑費合計一九六万円を支払つた事実は同原告の自認するところであるから、これをも参酌して、同原告の精神的苦痛の慰藉料は一八〇万円をもつて相当と認める。うち八〇万円の弁済は同原告が自認したから、被告らの残債務は一〇〇万円である。

四、原告妙子の逸失利益

<証拠>及び弁論の全趣旨によると次の事実を認めうる。

「原告妙子は事故前から妹二人といとことを使用して大衆食堂を経営し附近の会社三社の従業員への出前及び店舗における食事の提供を行い、同原告は主として料理と出前とを、妹といとこは店舗における給仕を担当し一ケ月二八日間営業していた。同原告が本件事故により七三日間入院しその後約二〇日間休業静養したので、その間この食堂では人手が足りず出前を廃止し給仕がおくれ、事故直前一日平均二万円の売上、五〇〇〇円の利益をあげていたのが事故後いずれも半滅のやむなきに至つた。同原告は退院後再びこの売上を増加せしむべく努力したが、出前の得意先を事故のため同業者に奪われ、かつ、同原告自身前示受傷のため出前ができず、しかもその後附近に同業者が新規開業した等の事情があつて以来今日まで売上利益ともに半滅したままである。」

以上の事実を認めうる。

思うに同原告のように附近の会社の従業員に対する食事の出前及び店舗における食事の提供を業とする場合、同原告主張の如く、本件事故がなければ事故後八年間、事故前と同様の利益をあげ得たとは断定できない。即ち食堂業は他業種にくらべて比較的開業が容易であるから、附近に同業者が出現することがあり得るし、現に本件の場合同業者の出現をみているのである。このほか現下の経済情勢の不振にかんがみ得意先会社の業種の悪化も予期されるし、近時の物価高騰に伴う材料費人件費の増大も無視できない。これらはすべて利益減少の原因であつて、同原告が将来も、事故前と同一の利益をあげ得たであろうとの推定を困難ならしめる。同原告は退院後努力の結果、附近に同業者が出現するという悪条件にも拘らず、なお事故前の利益の半分をあげ得たのであるから、この悪条件がなければ利益の減少の割合はなお少かつたと推認できる。

よつて同原告はその入院治療及び休業静養により事故後三ケ月間は一月当り七万円(一日二五〇〇円の割合で一ケ月二八日間営業であるから月当り七万円となる)の割合、その後さらに一年四ケ月間は前示の諸事情とくに同業者の出現をも考慮し本件事故により一月当り三万円の割合による各利益の減少をみたというべく、右期間中のその余の利益減少額は本件事故と相当因果関係ありとはいえず、また右期間経過後即ち昭和四一年三月一四日以降における本件事故に起因する利益の減少額は前示の諸事情にかんがみこれを推認するを得ない。

よつて右利益の減少額の合計額からホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除しこれを事故時の現価に引直すと六六万六四六九円となる。(沖野威)

<編註>請求原因事実(1)は、次のとおりである。

「被告会社は普通貨物自動車(愛四も―九七一三)を自己のため運行の用に供する者である。被告井戸はその運行のため昭和三九年八月一四日午前九時一五分頃右貨物自動車を運転し、名古屋市中区西瓦町一番地先のグリーンベルト右側の高速車道(幅八米)を時速四〇粁で北進中前方注視義務を怠り漫然進行した過失により、自車が左寄りに進路をかえているのに気づかず運転を続け自車を左側グリンベルト上に乗り上げさせ、同ベルト上に立つていた原告妙子(当時四〇才)及びその次男原告今人(昭和二九年二月八日生当時一〇才)に自車前部を衝突させて、原告らを附近の電柱に強く押しつけ、よつて原告今人に対し左下腿部挫滅創の傷害を負わせ同人に三ケ月間の入院治療をさせ、その間に左下腿部切断の手術を受けるを余儀なくせしめ、その後さらに二ケ月間の通院治療をさせ、原告妙子に対し頭部打撲、右側頭骨亀烈骨折、脳内出血、右肋骨右下腿骨骨折などの傷害を負わせ七三日間の入院治療及び七日間の通院治療をさせたものである。よつて被告井戸は不法行為責任、被告会社は保有者責任により連帯して損害賠償義務を負う。

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